地獄からの使者、再び。

帰国の便に無事搭乗した私達は、とりあえずビールで乾杯。
そして、あのくそまずい機内食に、舌鼓を鳴らせずにいました。
しばらくして、アイ・ロボットが上映され、鑑賞していた私は
安堵のせいか、映画がつまらないせいか、知らぬ間に眠りについていました。


「ブォーン」
マイク・リ−の映画ばりの不吉な音がした気がして、目を覚ましました。
私達を嘲笑うかの様に、ゆっくりと確実に例の呪いが迫ってきているのを肌で感じます。
「姉ちゃん、ビール!」とドリンクを注文し、極力リラックスしようと試みました。
しかし、機内で泣き叫ぶ子供の地獄絵図と相まって、不安は膨らんでいきます。


「ブォーン」
ニ度目の大きな音で、呪いが私の身に降り掛かったことが分かりました。
ふと、指先に目線をやると、あれっ、あれっ。ない、ないですよ。
結婚指輪がないですよ。
あぁー、一番無くしちゃいけないものを、無くしました。
あははははははは。もう、笑うしかありません。


私達の捜索の甲斐なく、指輪は見つかりません。
スチュワーデスにも捜索の依頼をしたので、もう、それを頼るしかありません。
しかしながら、いつ無くしたか定かでないので、機内にあるとは限らないのです。
絶望。
そう、呪いに負けた絶望的な男を乗せて、飛行機は成田に到着しました。


成田に着いてから、スチュワーデス達は、その華やかさをかなぐり捨て、
四つん這いで、床に這いつくばり、指輪を探してくれました。
私は、そのやさしさに触れ、感動の涙で、床も見えず、
座席の角に頭をガンガンぶつけるばかりです。


「やはり、ないですね。」
スチュワーデスは、申し訳無さそうに、そう呟きました。
「分かりました。」完全なる敗北宣言です。
この新婚旅行は、何のためにあったのか。
もう、今となっては、行った意味など見当たりません。
後悔だけが残る旅行でした。


肩を落とし、出口へ向かう二人。
その背後から、走ってくる人影が見えました。
「見つかりましたよ!」
さっきのスチュワーデスです。確かに手には、私の指輪が!
「ハ−、ハ−、3列後ろの、ハ−、座席の、ハ−、下にありました、ハ−。」
全力疾走で来てくれたので、息が激しく切れていました。
「ありがとうございます。」
こちらも、全力疾走分の感謝の気持ちで礼を述べ、
そして、結婚指輪をあるべき指に、そっと戻しました。


ロード・オブ・ザ・リング
それぐらいの壮絶なバトルと感動のフィナーレです。
呪いに打ち勝ちました。持って生まれた悪運の強さ故でしょうか。
とにかく、最終的には最高の旅行になりました。


映画と違って、これで終わらないのが、現実。
私の不注意で指輪に付いてたオニキスの玉が取れました。
(後日、修理して治りました。)
しかも、メガネも紛失したようです。
私は真性のバカなのでしょうか。バカにつける薬はないのでしょうか。
その答えは、きっと、嫁だけが知っているのでしょう。


(終わり)


最後に、私達をメキシコに導いてくれたオアハカのガイコツたちに感謝!